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大戦末期に、ソ連軍の侵攻を逃れて、樺太から子どもを連れて日本に帰還し、その時の記憶を抱えたまま戦後を生きてきた女性を、現在の側から照射するという物語は、よくわかるし、吉永小百合は頑張っていると思う。ただ、過去を捨てて、一人前の男になることを目指してきた次男に扮した堺雅人の演技がなぁ……。目許の変化だけでは、それまで内に抱えてきたはずの苦闘が感じられないのだよ。北海道の風景はいいけどね。荒れる海や、鄙びた駅。それに二人が登る太田神社の石段など。
「ゆきゆきて、神軍」の場合は、確信犯的な奥崎謙三の行動を追うだけで、画面に緊張が生まれた。その点、アスベスト被害者の人たちは、いずれも普通の人たちである。だから、彼らを撮りながらも、作品になり得るか不安だったという作者の気持ちはわからなくない。だが、8年間という時間が、そんな作者の不安や迷いを払拭し、見事に充実した作品として結実した。何よりも素晴らしいのは、亡くなった人も含めて、彼ら一人ひとりの顔を印象深く浮かびあがらせたことだ。普通の人を舐めちゃいけない。
成田凌演じる楽人がいい。むろん、それは草太に扮した井浦新の受けの演技に支えられたという面もあるが、それを超えた無邪気さと、時折見せる翳りが、楽人という人物に厚みをもたらした。その一方で、津田寬治演じるやくざとその手下の阿部亮平が自称ラッパーのJAY(ペロンヤス)を追い詰めていくところがリアルでかなり怖いし、半グレの川下(裵ジョンミョン)の善人面した残忍さもよく出ている。という具合に、物語の展開よりも、それぞれのキャラを活かした俳優たちが記憶に残る。
タイトル前の、沼に架けられた橋の上から周辺まで、祭か何かで気勢を上げている大勢の人を、空から(ドローンで?)緩やかに下降、移動しながら、逃げる浪人を追っていくまでをワンカットで捉えた画面には、眼を見張った。ただ、話が進むに従って、その規模が縮小されていくので、冒頭ほどの驚きはなくなる。むろん、曇天火と風魔一族と犲の三つ巴のアクションは山盛りだし、次男が大蛇の血を受けているというのも悪くないが、最後に、政府が収監した囚人たちが一緒に出てくるのはどうか?
堺雅人をあからさまにイヤなヤツに設定したのが効いている。どうしてこういう人になったのか、という部分とそこからの脱却とがごっちゃに描かれて飽きさせない。母親との二人旅の観光気分も悪くない。正直それをきっちりやってくれれば十分満足したはずだが、何を思ったかしつこく舞台劇が現れる。ケラ演出が大真面目に群舞を振りつけていてどう対処したらいいか分からず。ある事件のショックで精神の均衡を失った吉永の設定もいいのに、舞台劇に時間を取られ過ぎ勿体ない仕上がり。
国が栄えるためだからこの程度の被害はどうってことない、という裁判所の、ある時点での見解には怒る前にア然。そういう国に住んでいるとつくづく知る。問題の地域には朝鮮半島出身者も少しいて、彼らと日本の複雑な関係も根っこにあった。これも初耳。だが本人はそう指摘されるのを嫌がっていたね。監督が語るように、ここに現れる人々はどこまでも普通人。凶暴さも怨念もない。あくまで正当なやり方で抗議する。省庁に突入しようとして頓挫するハンパな画面が、だから逆に面白い。
これほんまに『わろてんか』のぼんと同じ人やろか、という成田の狂演がグッド。新の前半びびり演技も新鮮で、後半、実家お好み焼き屋のあんちゃんになっちゃう凡人ぶりをスムーズに準備している。しかし最もキャラが立ってるのは津田寛治の刺青やくざ。彼が胴元をやるギャンブル格闘技の場面から突然話が面白くなり、タランティーノ感覚の物語シャッフルぶりが決まる。何のための殺人か分からなくなるあたりもタラ風味。人を食った終わり方もおかしいが、高良をもっと見たかったな。
冒頭ドローンから手持ちへと途切れ無しのワンカットで進むカメラワークに痺れる。橋のセットも和太鼓も大群衆もいいんだが、物語に関係ないのが惜しい。ベックリン《死の島》っぽい監獄への侵入風景とか「レイダース」風のクライマックスとか見どころ満載だが、閉鎖的なシチュエーションのせいでちんまりまとまった印象なのが残念。ただこの手の架空の、つまりSF感覚の幕末&明治維新映画ってハズレがないな。方法論が確立されているのだろう。女を完全に排除した作りもアッパレ也。
吉永の夫が阿部寛で、堺雅人は息子役のはずが恋人同士みたいにイチャつくのを眺めながら、話題の惹句「東映じゃけぇ、何をしてもええんじゃ」は本作にこそ相応しいのではないかと思えてくる。滝田に加えて劇中劇の舞台演出にケラを招聘しても、小百合映画の壁は越えられず。痴呆を描くのは良いとしても、結局寓話に収拾されてしまい、老いを演じる絶妙な年齢を迎えているだけに釈然とせず。戦後は存在が消されていた息子の一人についてはミステリ的伏線を張っておいて欲しかった。
前半は運動を記録したよく出来た映画だが、微温的な運動に業を煮やした原が原告団を煽り、遂には一人が過激な行動に出て怒りを表明する後半で原一男の映画になる。過去に天皇への不敬で捕まった祖父の話や、在日への差別がさりげなく出て来るのも良い。バタバタと原告たちが死んでいく中で国家を相手にした抗争劇は「仁義なき戦い」シリーズの後半と同じく〈外交と手打ち〉の内幕が明かされる実録映画的面白さと虚無感。広島弁ならぬ関西弁の言葉のリズムと底抜けの明るさも魅力。
才気を過信して映画を撮ってみたら、アニメを大胆に活用して意欲的な試みを見せるも、支離滅裂で演出不在の冗長な映画になってしまった典型。猥雑な魅力を発し得るディテールが点在しているものの雑多なだけに終わってしまった。内容空疎なから騒ぎをモノローグで強引に進めようとするものの編集のリズムが悪く、135分が果てしなく長く感じる。津田が出て来るとようやく映画らしさが漂うが、そこまで。糞つまらないという意味のフレーズが入る主題歌を複雑な思いで聴くことに。
冒頭のドローンによる空撮から手持ちへと切り替わって街の喧騒を1カットで描くのは目を引くが、逆にセットの矮小ぶりが目立つ。金がかかっているとも思えない94分の作品だけにB級活劇に徹してくれれば良いものを、大風呂敷を広げようとするので劇中で言うところの〈器〉から溢れかえってしまう。戦略に欠ける「レイダース」風クライマックスも、あちらがB級映画を大作に仕立て直しているという点を忘れているとしか思えない。「銀魂」「帝一の國」以降としては古めかしい。