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婚活ね。なんとも後味の悪い『後妻業の妻』という映画もあったが、こちらは、広島県庁の結婚支援プロジェクトとやらに乗った企画らしく、ひたすら前向きで賑やかに装う。話の主線は、初対面からぶつかり合う男と女が、いかにして結ばれるかという古典的な恋愛談にあるが、それを瀬戸内海や対巨人戦で賑わう広島球場など、ご当地観光巡りで色づけた点がミソか。叩き上げの社長らしい泥臭さを漂わせる風間杜夫と、忠実なしもべ風の八嶋智人の秘書が、息の合った演技を見せる。
実際にあった事件のノンフィクションが原作で、このタイトルときては、見る前に陰惨なイメージがちらついたのだが、映画の実際は違っていた。次々と人を殺すのだから、酷い話には違いないのだが、随所に滑稽感がつきまとうのだ。それは、殺人を思い立つのも安直なら、実行も行き当たりばったりで、後始末など念頭になくやるからだ。だから、人は首を絞めても、簡単には死なず、睡眠薬を飲ませても死なないから、すべて二度手間がかかる。その成り行きが滑稽で、どこかリアルでもある。
ご存知、又吉直樹の芥川賞受賞作が原作。菅田将暉が駆け出しの漫才師で、そんな彼が一目見て惹かれ、師匠と仰ぐ先輩が桐谷健太という役どころは、合っているだろう。そこから吉祥寺あたりでの暮らしというか、漫才師としての芸を模索する青春グラフィティともいうべき日々が綴られていく道筋は、ほぼ原作に忠実だが、なんか、いまひとつ、ピンとくるものがない。それは、芸というもの自体の摑みがたさでもあるが、その摑もうとしながらも、捉えきれない難しさが見えないのだ。
子どもが欲しいという以外、なんの不自由もなく暮らす30代の専業主婦、喫茶店を営む祖母と奔放な母と暮らしながら、家にも学校にも馴染めず絵を描くことだけが支えの女子高校生、家を捨てて専門学校に通ううちにAV女優となり、日々を撮影に追われる20代の女性、三人の日常を追った描写は、さすがに堂に入っているのだが、主婦が停滞した日常から踏み出すべくAVに出演したところから明らかになる、三者それぞれが抱える悩みが、なぜか、同じように見えてくるのが物足りない。
広島の御当地映画。発明家のお金持ち老人が婚活三昧、というコンセプトで、風間杜夫を「わんぱく王子の大蛇退治」から知ってる私としても感慨深いものが。ついでに言うと「イルカに乗った中年」城みちるまで出現し、呆然。官民の協力態勢も万全で県民一般は大いに楽しめるはずだが野心的企画で全国制覇、というノリじゃない。むしろ「独身の皆さん、広島にいらっしゃいませんか」と言っているのかも。ガイダンス、あるいはカタログムーヴィーなのだ。監督の器用さが裏目に出たか。
意外なことに面白い。露悪的な企画かと思っていたのに俳優陣、皆健闘しているし監督も人を動かす才能がある。一家による情状酌量の余地なき犯行でも、この人たちが極悪人のような気がしない。極悪人なんだけどね。最後には、頼まれると断れない四人殺し実行犯の主人公が可哀想に見えてくるから大変なもんである。車が沈む沈まない、というシチュエーションの可笑しさは出色。ハシ休め的に挿入される病院シーンでの侏儒と美少女のSMみたいな感じも良く、監督、リンチのファンかな。
天才肌の芸人と、彼を師と仰ぐ常識人の芸人、対照的な二人の十年間。お笑い芸を描いた映画はえてして笑えないものだが、これは例外、十分可笑しい。菅田と桐谷の素のキャラが活かされている感じだ。世に容れられない芸風の桐谷に惹かれながらも、そっちに行き過ぎない自分の漫才を模索する菅田という構図は描き方によっては嫌味なものだ。しかし、この作品では桐谷の弾けっぷりがガムシャラでいい。でも、一番いいのは主演陣によるラストの主題歌〈浅草キッド〉の熱唱だったかもね。
久しぶり、瀬々の映画に心から感服した。最初は話が読めず結構とまどったが、それ自体脚本の意図とじわじわ分かってくる。AV嬢をめぐる複数の物語が同時進行する構成でネタバレ厳禁ぽい部分も多い。怠惰な母を持った天才女子高生画家のいらついた日常と、仕事が家族にバレた人気AV嬢のルーティンワーク、初めてAVに出る主婦の本番デビュー、三つの挿話が脈絡なしに切り替わる編集センスが手練れの技。この程度は書ける。普通人に出来る冒険ってもうAVしかないんだろうな。
量産体制にある金子修介だが、本作の様な地域振興系映画でも初老とアラサーの婚活を、奇をてらわない古典的なラブコメ構成と的確な演出によって充実した内容に作り上げる。往年の「どっちにするの。」で見せたノリは衰えず、こうした手腕は今や貴重――というより和製ロマコメは金子以降どうなっているのかと思わせる。女優を画面で華やがせる基本すら覚束ない映画ばかり観ていると、片瀬那奈の長い脚を美しく配置し、金子映画のミューズ・中山忍の登場にも安らぎを覚えたほど。
自主映画時代に完成してしまったような最初から限界が透けて見える新人監督が多い中、小林勇貴の初商業作は〈未完成の魅力〉に満ちている。字幕を活用して説明を乱暴に飛ばす語り口といい、洗練よりも猥雑を、綺麗にまとめることよりもハミ出る勢いこそを重視した疾走ぶりが心地いい。殺人は肉体労働であることを執拗に描くおかしさは笠原和夫の「実録映画は喜劇」のテーゼの忠実な実践とも言える。石井聰亙以来の才能と惚れ込ませる小林の〝狂い咲き〟と〝爆裂〟はここから始まる。
コンビではなく菅田が心酔する兄さんとの話なのが目を惹くが、十年にわたる話の時間経過は文字情報がなければ分からず、活動遍歴も見えない。「仕事がない」「金がない」「解散する」も台詞だけ。頼りがいのある兄さんである桐谷の抜けた部分が描き足りない。最後の漫才は『帰ってきたドラえもん』の焼き直しで感心せず。吉本映画恒例の古めかしい女性像も嫌になる。撮影・美術は良いが職人的技巧が不可欠な内容だけに監督人選は疑問。芸人監督なら品川祐の方が向いていたのでは?
キワモノかと思いきや、AVを尊ぶわけでも下に見るわけでもなく、彼女たちが選択した一職業として描いている。元AV女優の母を持つ娘、AV女優の娘を持つ母など、親子・姉妹の血縁を軸にした骨太な女性映画になっており、「ヘヴンズ ストーリー」に匹敵する魅力を持つ。生と死、都会と地方の対比も鮮やかに、彼女たちの物語が週末の夜から朝にかけて結実する見事な構成は瀬々版「土曜の夜と日曜の朝」と言いたくなる。不安定な心情を上ずった声で繊細に演じた山田愛奈が出色。