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いとも、もどかしいドキュメンタリー。浅草の、創業74年の老舗のパン屋さんは、食パンとロールパンの2種類しか作らないのに人気がある。これは確かに、何十種類ものパンを作るのが一般的になった時代に稀有なことではある。経営コンサルタントやスタイリストが、その意義を強調するのはわかるが、そこに比重をかけ過ぎているのが面白くない。もっと具体的な、パンの原料の小麦は特別なのものなのかとか、仕込みの工夫とか、企業秘密に触れない範囲でも知りたいのに、それがないのだ。
瑛太は、ダメ男を演じると天下一品だね。ここでの、甘ったれで、自己評価だけ異常に高いダメ男ぶりは、見ているこちらまで苛々して、同棲相手にサッサと別れろ、と言いたくなるくらいだから大したもんだ。そのぶん、佐藤江梨子演ずる相手のカナコが、健気で可愛く見えるから、話としては成功しているということか。対して、黒潮〝イケメン〟二郎をはじめ、プロレスの連中が、実にさわやかにカッコよく見えた。また、知らなかっただけに、レスリングのリング作りに目を惹かれた。
前後篇は仕方がないとしても、それぞれが長すぎる。とくに前篇は、長い割に記憶に残る場面が希薄だった。それは、現在の新宿の外景を「荒野」に転じるだけの力がなかったからでもある。それでも、菅田将暉とヤン・イクチュンの二人をはじめ、原作と対照的にスタイルの良い芳子役の木下あかり、片目のユースケ・サンタマリアなどが頑張っていたので見られるが、場面としての力は弱かった。その点、後篇は、ボクシングに集中しいく菅田とヤンの肉体が、画面に躍動感を与えていた。
この作りは、何かに似ていると感じ、ああ、あれかと思い当たったのは、テレビのお笑い番組だ。そこでは、誰かの発言に別の誰かが突っ込みを入れて笑いを呼ぶ。楠雄(山﨑賢人)の気を惹こうとする照橋(橋本環奈)の思い込みに対する彼の突っ込みなどは、まさにそれ。いまじゃ、これがお笑いの常道か!? 動きを含めた芸で笑わせる喜劇も、遠くなりにけりか。この映画で唯一可笑しかったのは、楠雄の超能力で、高校生が次々と石像になり、兵馬俑のようになる場面だったけどね。
誠実なパン屋さんがビジネスも成功させて近隣のみならず、遠くの方からも買いに来る。良かったね、と祝福するしかない。でも個人的に、偉そうに出てくる「ここのパンじゃなきゃアタシだめ」みたいなご婦人が一等苦手である。そういう人はいていいし特に文句もないが、それが映画か、と改めて問うならば疑問。結局何がペリカンを成功に導いたか、という一点に作家的視点は収斂するだけなので「良かったね」で終わっちゃう。さぞ美味しいだろうとは思うが「イメージ戦略」だよね、これ。
かわいいダメ男としっかり者の彼女、という物語は基本自閉的なので一歩間違えると過剰にナルシスチックになりがちだが、これは下町コメディ風味を強調したおかげでそうした悪弊を免れている。周囲の人物との関わりを上手にすくい取っているのだ。餃子パーティというのが特にいい。右胸と右腕の筋肉だけが発達している主人公の設定も無理がなく、これは瑛太の次の主演作に引っ掛けているのかな。彼女の方の商売替え事情もポイントで、徐々に佐藤が生き生きとしてくる感じが効果的だ。
とっちらかった印象の前篇から密度がぎゅっと濃くなる後篇へ。続きなのに唐突な始まり方に思える演出。新宿とバリカン、二人の運命が意志的に離れてまたつながる経緯をあくまでリング上で敵として戦うため、としたのが成功の要因だ。ファイト場面も幻想的に処理される部分以外は本気で殴り合っており、価値が高い。ただ私には新宿はともかくバリカンが闘う理由をあまり理解できていない感じもする。結局、暴力親父との葛藤という前篇からの因縁はどういうことになったのか、不明だ。
コンセプトの勝利。文化祭を穏便に過ごす、そのためだけに超能力者が大活躍という物語を誰でも可笑しいと思えるか、他人事ながら心配だが私はノッたね。「うる星やつら2/ビューティフル・ドリーマー」を思い出す人もいるだろう。ムロツヨシのマジシャンの使い方もいい。よく考えたら彼の演出に引っかかったのは主人公の方なのだ。ポーカーフェイス少年と腹黒い美少女の取り合わせも最上。両者の心の声バトルみたいな構成と、クライマックスで宇宙物にスケールアップ、これが楽しい。
最近の内外含めた日本食ドキュメンタリーらしい画面の色調整と無菌室的な空気感にライフスタイル雑誌の別冊付録的と思う。その手の雑誌も割に買う身としてはBGVとして自室で流したくなる映画ではある。美辞麗句を並べる人より、店頭でモグモグと食べる常連が言う感想で、ペリカンのパンが食べたくなった。ベテラン職人と四代目の関係、日本における代用食としてのパンなど深掘りできそうなネタも心地よく流れていってしまうのを不満と感じるか、不要な雑菌の除去と感じるか。
水増しみたいな描写がやたらと目につく昨今、100分強でテンポを落とさず見せる作品は貴重。しかし、「百円の恋」でも感じたが労働や金銭が記号でしかなく、省略が描写のサボりに見えてしまう。家賃はどうすると言いつつ瑛太は自らが斡旋したサトエリの職場で妨害行為を繰り返し、挙句に本業の俳優業でも撮影当日に現場に行かないという売れない俳優としては致命的な行為を取っても意に介さない。喧嘩しても次のシーンでは仲直りしているが、その間に何があったのかを見たい。
都心にテーマパーク的な葬儀場を作る計画が持ち上がり、街頭には防衛の幟が立ち、社会奉仕や反対デモが渦巻く2022年は、冗談みたいなことを平気で権力者が口にする時代へ急速に傾いた今、妙にリアルに見える。後篇の中心となるボクシングシーンは、俳優がある程度トレーニングして演じるわけだが、その限界をどう打ち破るか、俳優だから可能な躍動美を、カメラ、編集の三位一体で組み立てた迫力が良い。配信されている完全版も観た上で、これを2時間にできないか再考したい。
これまで映画では空転しがちだった福田演出が「銀魂」で初めてフィットした感に喜んだのも束の間、また退屈なクスリとも笑えない映画に戻ってしまった。主人公が常に相手の一挙手一投足にツッコミを入れていくので間延びしてしまい、90分代でも長く感じる。漫画なら読み流せばテンポは落ちないが、画一的に編集するだけでは一本調子になる。乱調の美を体現するのがムロツヨシのみでは辛い。毎度ながら脚本家が書いたものを演出でアレンジする方が向いている監督に思えるのだが。