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結構お金はかかっているのだろうが、そのわりに、ひどく手薄な印象なのは、せっかく原作が京都を舞台にしたというのに、京都らしさがまったくないからだ。先斗町だの祇園だのとセリフで語られるだけで、その街の様子が皆無というのは、どういうわけか。ファンタジーだから「この世界の片隅に」の呉の街のような精密な絵は不要だが、物語を支える場として、京都の街並みは不可欠だろう。キャラの造形は凝っても、雨が降っても街の匂いがないから、話の他愛のなさだけが浮き立つ。
切れがいい。とくに前半。田舎道を歩き、渋谷の街を歩く大西信満、喧噪に満ちた店で働く遠藤祐美、車でさらった男を裸にして金を奪う手下を無表情に眺める渋川清彦。それらを写しだすショットの切れがいい。この三者がどう絡むのか、という期待感をそそると同時に、語りのリズムがハードなのだ。それは、草を摘む老婆のところにやって来る上原実矩の登場の仕方にも、次第に本性を現す大和田獏についてもいえる。奥田庸介は、日本で数少ないハードボイルドが撮れる監督と見た。
将棋に生きるすべを求めるしかなかった孤独な少年の成長物語というだけでは話が膨らまないから家族の物語を入れ込み、となると、前後篇になりましたという訳だが、後篇は、その家族の話が全面化する。前篇ほど回想シーンの挿入が多くないぶん良かったが、それにしても説明過多ではある。神木隆之介演じる桐山を温かく迎え入れ、祖父も交え幸せ一杯に見えた川本家にも、妻子を捨てた父が現れるかと思えば、次女は学校でイジメに遭っているとか……。ことの平凡さに較べ描写がくどい。
工場で、仕事には熱心に取り組んでいるものの、同僚に話しかけられると、普通の応答ができずボーッとしている男を演じた本多力が出色。P星人からの「被食者認定証」が届くと、工場の後輩に誘われて居酒屋に行ったり、彼から紹介された若い女に付きまとわれたりしながら喰われるまでの1週間を過ごすのだが、そこからは、食べられる=死であることを自覚しないまま流されていく男の感じをよく出している。そんな彼を食べたP星人が、不味いというのには思わず笑ってしまったのだが。
やっぱり土地柄のせいなのか、或いは映画的環境における充実度のせいか、東大より京大に行きたくなるね。京大の方がエンターテインメント系の作家が多いせいかな。これは盛り場デビューの京大(多分)女子が一晩すったもんだの大騒ぎ、というお気楽な物語だが、それが数カ月数年の出来事のようにも思えるように構成されていて秀逸。彼女に恋する男もその間うろうろして話をかき回す。ありがちな物語だが時空間のスケールをデフォルメさせてアニメーション化、奇妙な感触はそれ故だ。
純情、だけど狂暴な男が偶然出会った女に一目惚れ、用心棒になる。いわば渋谷の無法松ですな。彼女につきまとうヤツを粉砕したりして展開によってはいい話にもなっただろうが、誰のせいだか「イヤ~な」エンディングを迎える。これは必ずしも悪口じゃなく、周りの連中が極道者だからしょうがない。特に大和田獏。これがあのミスターお茶の間と同じ人か、という小心者でケチな悪党、しかもコスプレ好きを演じて充実。でも渋川、大西、大和田でちゃんとしたヤクザ映画も見てみたい。
面白いが星は伸びない。長い話を上手いこと二つに分けたが、ダイジェストっぽい印象が出ちゃった。前篇の方が緊張感はあった。彼が挑むことになる王者の弱点が単なる雰囲気に終わっていて、かなり肩透かしであった。まあ彼の弱点を攻めるというコンセプトじゃないから、映画の弱点とまでは言わないが。良い悪いは別にして、せっかくの後篇が前篇の説明にしかなっていない部分もある。悪口を書いたが、前のを見た人は当然こっちも見るだろう。俳優はこっちの方が生き生きしている。
かつてのSFテレビドラマ『ミステリーゾーン』が25分で描くような物語をわざわざ三倍かけて映画にするのに、このアイデア不足はどうしたものか。しかも説明が長い。この設定なら学校の先生の授業なしで描いてくれなきゃ映画にならんよ。それとも三話オムニバスにするとか何かもっと手はあったのではないか。それとこの脚本家は、自分が一週間後に食べられるなら何をするか、という基本的な部分をそれほど大事にしていない感じがする。どうやらオチから考えたのではないだろうか。
湯浅作品としては「マインド・ゲーム」ほど神がかった傑作ではないにしても「四畳半神話大系」の世界観を大幅にアップグレードさせ、変幻自在に時間も空間も季節までも伸縮させた演出を大いに堪能。先斗町に現れる三階建電車、夜の古本市などの魅力的な空間造形、ディテールの充実ぶりも素晴らしい。オムニバスを一晩の出来事に凝縮させた構成は監督の力量を踏まえたものだろうが秀逸。ヒロインの黒髪の乙女にはぞっこん。ああいう風貌のウワバミ文化系女子ってどこにでもいるのね。
自作自演の佳作「クズとブスとゲス」で復活&新世界へ進んだ奥田だが、逆に次が難しいのではと思っていた分、大西、渋川のここ数年のベストアクトを引き出し、手堅い劇映画を作り上げたことを喜ぶ。殊に大和田獏の堂々たるヒールぶりは、善人顔の俳優に逆の役を振るという初期北野映画に見られた効果を久々に体感。エレベーターから外へ、裏通りから表通りへと常に空間を連続させることを怠らず、虚構の空気を渋谷の外気に晒すことで映画の温度を上げてみせた渋谷映画としても突出。
前後篇映画では後篇が落ちると感じることが多いが、これは落ちが少ないのではないか。難病、死、いじめ、家庭崩壊と盛り沢山だが演出の抑制は後篇でも揺るがず。川本家の次女のいじめ騒動や父の帰還で尺を取るが、これが必要かどうかは意見が分かれるところだろう。神木の無色透明感と芯の強さは2本にわたって引きつけて劇を回す力からも実感。神木が家を出て行く時の豊川の反応を拾わなかったり、〈Aが○○してる時の同じ場所にいるBの反応〉が飛ばされている事がやや目につく。
藤子・F・不二雄の『いけにえ』+『ミノタウロスの皿』と思わせる話だが、宇宙人による地球人被食制度が一般化した社会という基本的な世界観が最初に上手く提示されていないので入りにくい。主人公もその理不尽さに抵抗するでもなく、これでは難病で一週間後に死ぬ話でも代替可能。演劇的な状況設定や強引な展開に、舞台なら成立するだろうなと思うこと多し。主人公の〈食〉が大きな意味を持つはずだが、コンビニ弁当を完食するまで長回しでこれ見よがしに撮るだけでは伝わらず。