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ちょっと甘いかな、と思いながらも、★一つ奮発したのは、歌と、松坂桃李と菅田将暉の兄弟が、絶妙なハーモニーを奏でていたからだ。音楽をやるなど絶対に許さぬという厳格な父親に、正面から向きあう兄(松坂)の思い詰めたような顔や佇まいに対し、趣味として音楽を楽しみながら、親の期待に応えようとする弟(菅田)という対比が、二人の俳優によって見事に表現されていた。ただ物語として、それを生かしているのは、今どき珍しい厳父という存在が重しになっているからだろう。
これが映画だ、と改めて思う。俳優で見せる映画ではない。むろん、俳優が悪いわけではない。何よりも脚本と映像や音楽、それらを統括する監督の力によって成り立つ映画なのだ。しかも独特にエロティックな。脳波を示す無機的な曲線が、主人公の研究者と助手の女性が結ばれたところから、なぜかエロティックに見えてくる。そして、彼が認知症の母と治療のため脳波を同期させたことから、二人は禁断の愛の世界へ、さらには後戻り不可能な世界へと踏み込む。その過程が怖ろしい。
妻夫木聡演じる週刊誌記者による、未解決の一家殺害事件の聞き取りに登場する関係者それぞれの像が、よく描かれている。つまり焦点は、殺された夫婦に当てられているのだが、それを語る関係者の思惑が同時に明らかになるのだ。だから、観客は、見るほどに謎を深めていくのだが、この作劇はなかなかなものだ。それはともかく、精神分析を受けている場での満島ひかりの、ほとんど無垢にも見える表情での語りは素晴らしい。対して妻夫木は、訳ありとはいえ最初から表情が暗すぎる。
長い。全体もそうなのだが、一つ一つのシーンやショットが長すぎるのだ。最初の、少女と老婆のやりとりにしても、階段のシーンにしても、引っ越しの場面での運送業者とのやりとりにしても長い。さらには、初めて上京してきた父娘が新宿で亡母の妹と三人で食事をするシーンも長いし、父親が勘定を払うところでの店員との応答も、素朴で実直な彼の性格を表すつもりなのだろうが、しつこい。これは作り手が、東京で一人暮らしを始める娘と別れる父親の気持ちに入れ込み過ぎたためか。
兄弟を演ずる俳優が好い。松坂と菅田に外れなし。でも実話だという前提に寄りかかっている。言い換えればこのグループのファンにしか気持ちが届いていないな。ファンに見せるのが目的だろうから無粋なことを言っても仕方ないのだろうが。企画の救いはお母さん。兄弟が真っ当な生き方を貫けたのは彼女のおかげであり、そこを強調できたことで父親のダメさまで救われた感じになる。兄貴に才能を見出された弟、という物語で楽曲が作られる過程が面白い。恋バナは要らなかったのでは?
前作で効いていた日本家屋がまたも登場する。最先端の研究室とこの四畳半実験室の対比が見どころになってもよかった。ただし前者が妙に陳腐。むしろ後者の貧乏たらしい手作り実験描写を徹底出来たら面白くなったのに。残念。母親に同調される子供というのは「サイコ」だろうが、性的にあからさまに出過ぎて効果を減じている気もする。これが中途半端な最大の理由は「脳波の同調と細胞再活性には本来何の関係もないのに、物語がそっちにねじれてしまった」こと。つじつまが合わない。
原作はインタビュアーが前面に出てこない分、謎の要素が多くもやもや。そこがいいのだが。映画はジャーナリストが未解決の殺人事件を追う物語をはっきりさせている。冒頭のつかみは日活の青春映画に似た趣向があるものの、こっちの方が底意地が悪い。出てくる人誰もが誰かを陥れたり、おとしめたりという連続でいかにも「ひっかけ所」満載ミステリーを最初からやってると分かる。結構無茶な展開が待っていて、それが愚行の意味。とはいえ妹に対して愚かじゃない兄貴なんていないか。
誰かが誰かをおんぶして歩くシチュエーションが決まれば、それだけで映画は傑作になる。と言っても今「無能の人」しか思い浮かばないが。これもそこに上手いことたどり着いて星を伸ばした。広島弁というのも映画的。まあそれは色々あるな。時間が数日間を行き来する複数エピソード構成で、娘の東京暮らしの準備のための父との小旅行を描く。ご当地映画という言葉はすっかりおなじみになったが、ある意味これは究極。主要舞台はおおよそ商店街一つ分だ。この父娘コンビいいですよ。
観る前は軽薄な音楽青春ものだろうと思っていたが、古めかしいタイトルの出し方におやと思わせ、手堅い作りの青春映画になっていることには好感。右往左往するだけの類型的な母親の描写はうんざりだが、息子の音楽活動に断固反対する古典的頑固親父は小林薫なので見ていられる。脇で弾ける役を演らせると面白くなってきた松坂が荒っぽく指導しながら自宅クローゼットで宅録する描写がいい。直接的な言葉ばかりのこっ恥ずかしい歌詞への嫌味を松坂の口から言わせたのも溜飲が下がる。
緊密なショットのつなぎで映し出される狂ったメロドラマを惚れ惚れと眺める。ヒトと動物との脳波接続実験がもたらす悲劇は「蝿男の恐怖」などの類似作から予想できる通りだが、認知症の母と接続することで母子の愛情が露わとなり、息子である主人公とヒロインとの関係が同時進行するのがいい。三角関係の異形の恋愛劇という素晴らしい設定が構築されたところで、母が変身を遂げるのだからつまらないわけがない。こうした物語を何でもない日本家屋の和室で展開させたことも驚嘆。
「怒り」でもモデルになった世田谷一家殺害事件だが、映画としてはこちらが上。事件後、周辺が空き地となって荒れた不穏な雰囲気もよく出ている。育児放棄で拘置された妹を抱える記者が事件を追う過程で明かされるスクールカーストを虚仮威しの演出ではなく、それぞれが日常を営む上で自然に身に着けた鎧として描いているので臭くならない。脚本の完成度は高いが全篇にわたる生硬な演出は功罪相半ば。終盤は演出も転調が必要だったのでは。小出恵介のナチュラルな人でなし感が絶品。
間延びさせて尺を稼ごうとしているのかと思うほど、各シーンが無駄に長い。冒頭の引っ越し業者と大家の老婆との会話からしてそうだが、亡母の妹と新宿で落ち合った父娘が店で食事する場面も、15分にわたってどうでもいい会話が続く。退屈な会話をそのまま見せるのと、退屈な会話を描くのは違う。「四月物語」に小津を加味した〈二月物語〉とでもいった雰囲気を狙ったようだが、父娘の東京への戸惑いも一人暮らしへの憧憬や不安も無く、祖師ヶ谷大蔵の地域PR映画としか思えず。