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里といっても、山里ではない。大阪は釜ヶ崎にある「こどもの里」だ。親子の関係に問題のある子や、不登校の子や、いろいろな子たちがいるが、とにかく、みんな元気だ。子どもたちは、里の前で古着を売ったり、広場で開く運動会では、街の大人たちと一緒に走り、夏祭りには、館長の荘保さんを筆頭に踊ったりする。また冬には、不登校だった中学生を先頭に「子ども夜回り」といって野宿の人たちにカップラーメンを配り、話を聞くのだが、そんな彼らの姿に、この里の得がたい力を感じる。
前号で、西脇英夫が、本作の筋立てが韓国映画とそっくりだと書いていたが、それは映画以前の原作の問題であろう。その場合、横山の原作と件の韓国映画、どちらが先かも問題になるが。本作は、幾つか改変はあるものの、基本線は原作の通りだからだ。むしろ、同じように著名な小説からテレビドラマ、映画化というお馴染みの経緯を辿りながら、『劇場版 MOZU』のような小賢しい捻り方をせず、原作とがっちり四つに組んでいる点を評価する。ただし、結末の付け方には注文があるが。
家庭とか家族というと、温もりとか絆とか、手放しで良いものとする傾向があるが、なにを言う、家庭という地獄もあるのだ、と敢然と示した点がいい。その元凶である父親を演じる三浦友和が素晴らしい。とりわけ、結婚した長男夫婦と妻の両親を招いた中華料理店での振舞いなど、絶品である。彼は、自分の思い通りの家庭を築こうとして妻子に君臨する。それによって、家庭が破綻し、最悪の結果を招いても、些かも自身の非だとは思わない。その救い難さに対する田中麗奈がやや弱い。
いや、マイッタね。導入部で甘いラブストーリーらしく見せようとしたためか、まず、バックからの照明を主にした軟調気味の画面に、苛々させられる。そのせいもあり、話が核心に近づくまでが、ひどくもどかしい。で、運命の人として結びついた二人が、それぞれ思い出したくもないトラウマを抱えているという展開も説明的で、へー、そうだったの?と思うだけで、肝腎の二人が、そんな悩みを抱えているようには到底見えない。まあ、悪意を持った桐島というキャラがちょっと面白いくらいか。
難しく言えば地霊、要するに釜ヶ崎という土地の持つ独特の雰囲気がこんなに生きた映画は稀だ。生活破綻者の実母から離れて「里で」暮らす少女、知的障害と判断されて学校に行きたくない少年、他、雑多なエピソードを織り込み、ここにやってくる者それぞれの過去現在から旅立ちまでをきちんとまとめ上げる新人監督の手腕に感服した。結構みんなよく泣くのだが、無駄に「泣かせる」ための映画にはしていない。森﨑東の七十年代初期作品みたいな感触。里のお母さんが倍賞美津子っぽい。
最初の事件の模倣犯が現れ突然面白くなる。少々気になるのは主人公佐藤が初めの事件で捜査班の一員だった設定、何か間がぬけて見えないかな。キミずっと何をやっておったの、という感想を抱かせるのだ。だって他の人々は色々やってたわけだから。書けないけども。犯人のあぶり出し方に伏線がないのも弱る。どうして公衆電話なのかも私には分からなかった。と散々文句をつけたが瀬々監督が描くと記者連までうさん臭く、効果絶大。事件に関係ない事件の方も興味深いという稀有な作例。
昔「空がこんなに青いわけがない」という映画を見たら、友和さんが狂気の寸前できーこきーこ自転車をこいでいた。ここではその先にいっちゃった彼の自転車が見られる。お母さんも次男もやっぱりどこか狂っているのだが、皆が皆、狂気の中にいるわけじゃなく長男の新井くんが、彼らの板ばさみで悲劇に。こんな穏やかな彼は珍しい。友和ぬきの「最後の晩餐」談義も明るい室内が徐々に暗くなっていく照明設計で見せる。赤の他人、田中麗奈も建前だけの人かと思ったら突然狂うから凄い。
編集が軽快でカット数を数えながら見た。多分一一三七あった。同一画面の繰り返しも多いが監督の野心は内容より細かい編集にあるのは明らかだ。物語はトラウマに苦しむ女子高生と荒々しいイケメン少年の恋。その彼氏に屈折した恋情を捧げる少年もいて三角関係となるが、これがほとんどストーカー。可愛くないが見どころはここ。原作のはしょり方は考えられているが、もっとはしょるべきだった。続き物の後篇だけ見せられた感じか。殺菌されたみたいに綺麗な画で観客うけは良さそう。
隣町に住んでいた頃、難波への通り道だった西成の印象は冒頭と最後に自転車が周回して映す町の気分に近い。自転車から降りることが少なかった筆者と違い、こどもの里でボランティアをしていたという重江監督は地に腰を下ろし、同じ目線で向き合う。それまで使用されなかった字幕が不意に映る後半、残酷なクライマックスを予感させ動揺する。里の日常に心地よく浸って観ていたからだ。老人の町と今では思われがちだが、若者を主体に描いて町の若々しい一面を切り取った視点もいい。
〈急〉で押し切った前編は上々の出来だったが、中央の記者が乗り込んでくると記者クラブ連中が放置されるのが象徴するように帳尻合わせに追われる後編は兎角忙しい。折り目正しい風格を持つ作品だけに、佐藤の役職を越えた逸脱を肯定的に思えるほど映画がはみ出てくれない。覆面捜査車両に広報として乗り込みながら口を出しまくる越権行為はまだしも、更に過激化して終盤の展開に至る彼の憤りが感じられない。声に特徴のある吉岡が喉を必死に押さえて電話するバレバレな行為に苦笑。
傲岸不遜を演じる時の三浦は絶品だ。集大成とも言うべきゴーマンぶりを堪能。妻の南も、死刑囚の息子と獄中結婚した田中も過剰な役ながら適度に抑制されており、役者にお任せ監督が増える昨今、演劇出身監督の芝居を引き出す力を実感。前作同様、描写力の確かさも際立ち、平凡な家屋が禍々しい不穏な空間へと変貌を遂げる。一方、加害者家族も含め犯罪者の内面を描く意味を問いかけるような徹底した表層への固執は映画の外殻の強度となるが豪華なイミテーションを眺めている感も。
岡崎体育の『MUSIC VIDEO』風に行きます。「モノローグで全部説明する感情/どんな場所でも横から共演者出て来る/とりあえず目的もなく海へ行くよね/一瞬で浜辺に立派な砂のお城を作って/橋の上を走る時は無意味にオーバーラップになってスローになって/古風な女性観も押しつけて/忘れ難き台詞〝女の人生は男で決まるんだぞ!〟/ゆるぎなき制作意欲は作り手にあったのか/まともな映画にしてくれが受け取り手の想い/これで観客に届くのか少女漫画実写映画」