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三池崇史ミーツ学園ラブコメ群像劇という感じの原作はすごく面白くて、版元のサイトでレビューも書いた。漫画表現の魅力にも満ち溢れた作品なので、期待と不安が半々の実写化だったが、まずは予想以上の出来栄え。特に脇のキャストの豪華さ、各キャラのスタイリングの手厚さには驚く。この顔ぶれに惹かれて若い観客が映画館に詰めかけてくれるなら非常に嬉しい。欲を言えば、軽妙さと丁寧さのメリハリ、殴る蹴るだけでなく物体破壊も盛り込んだアクションの多彩さが欲しかった。
監督の小林啓一、脚本の大野大輔、主演の藤吉夏鈴・髙石あかりと、新世代の才人が一挙に集結しながら、一見まるで欲のない作りで楽しませる学園スクリューボールコメディ。体制に逆らう学生新聞部員のアナーキーな冒険を描くところは漫画『映像研には手を出すな!』を想起させ、適度に温度の低いコミカルな演出は初期の周防正行も思わせる。社会派要素を自然に盛り込む心意気にも好感が持てるが、もう少し「適度」から逸脱しても良かった。音楽が案外冴えないのも惜しい。
絵描きの映画は難しい。この作品も観ながら「そういうことかなぁ」と思うところ多々だったが、尺の問題もあるのだろう。絵を描くことの喜び、独自の視点の獲得など、見せ場にとっておきたいのもわかるが、そんな基本的なことは序盤で描いてしまって、どんどん高度な挑戦や障壁を惜しみなく描いてほしかった。とはいえ、トランスジェンダーの登場人物を単なる彩り以上(またはコメディリリーフ以外)のキャラクターとして掘り下げた青少年向けドラマが普通に全国公開されるのは喜ばしい。
石井岳龍監督の「映画表現と文学表現を横断する」一連の試みの集大成とも言うべき力作。前衛的文芸作でありながら「ELECTRIC DRAGON 80000V」顔負けのアクション娯楽作にもなっていて、確かにこれは石井監督にしか作れない。長年にわたり紆余曲折を繰り返した執念の企画だが、出来上がってみれば「ほら、だから面白い映画になるって言ったじゃないか!」という監督の声が聞こえるような、清々しい快作となった。箱をまとった永瀬正敏の所作の美しさ、キレのある動きにも惚れ惚れ。
学園の生徒たちの制服は男女とも真っ白な上下に黒いシャツとブラウス。何度もある集団アクションでは当然泥まみれ。そのたびにあらためて白い制服を用意する衣裳部さんの苦労が気なって。さらに言えばラウールほか男子生徒役がほとんど大人顔だけに、学園に紛れ込んだ白いホスト集団にも。と、話の中身より外観ばかりに気をとられ、ビジュアルからして人騒がせ。ともあれここまでぶっ飛んだ設定だと、ただただ呆れて成り行きを観ているだけ。脱力系の笑いもご苦労様。土屋太鳳の大変身はドッキリ級!
若い観客層向きのとんでも学園騒動だが、“私“のナレーションに加え、各人物の説明台詞や後だし情報が多い脚本と演出はかなり甘いし、学園の闇がまたチープなおふざけレベル。ではあるが、活字離れや新聞離れが言われて久しいいま、学園の目玉という設定の文芸部と、モグリの新聞部のスパイ合戦とはかなり大胆で、一方から踊らされているとも知らず二股をかける”私“の迷走は、さしずめ文学少女の勇み足? 新聞部部長役の髙石あかりが、刷り上がっていく新聞のインクの臭いにうっとりする場面にはほっこり。
共感度の高い青春映画である。いや間口の広さは青春に止まらない。映画はこれまで、音楽でもスポーツでも恋でもゲームでも、何かに本気でぶつかっていく人の姿を無数に描いてきたが、本作の場合は“絵”。しかも実証的、立体的に描いているのが素晴らしい。茶髪にピアスの高校生が、放課後の美術部で偶然目にした一枚の絵に触発され、才能や将来性など一切度外視、絵という難物に体当たり。美術部員のエピソードや彼らの絵も説得力があり、主人公が唯我独尊的ではなく、聞く耳を持っているのも頼もしい。
安部公房の原作は遙か昔、背伸びをして読み、リアルな観念小説という記憶以外、ほとんど忘れていたのだが、石井監督がその観念を人物たちの言動と挑発的な映像で具象化しようとしていることに敬服する。戦後の昭和。箱の中から外の世界を覗き見る正体不明の箱男。そんな箱男に惹かれる訳ありの男たち。ただ原作が書かれた当時はともかく、ダンボール生活というと、どうしてもホームレスを連想してしまい、それが観ていて落ち着かない。“箱男を意識するものは箱男になる”という言葉も皮肉に聞こえて。
単純明快な基本設定を愚直に実写化し、アクションを的確に見せ、プロフェッショナル学生集団を巧みに描き分けた作劇が成功。ラウールの二枚目半ぶりが予想外に良く、長身を生かした所作がアクションと笑いを弾けさせる。この逸材を日本映画は逃してはならない。土屋太鳳の男装の麗人ぶりも素晴らしく、彼女を見るだけで料金分の価値あり。キラキラ映画の受けの芝居には魅力を感じなかったが、奇想とアクションを前にしたときの攻めの演技は突出。もうバンコランも彼女に演ってほしい。
時代錯誤な設定も台詞も瞬時に観客に了解させ、没入させてしまう小林啓一は、小さな世界を周到な演出で拡張させ、学校をスパイ戦の舞台へと変貌させる。随所に一歩間違えれば白々しくなりかねない箇所が出てくるが、戯画的な描写とリアルの配分が神がかり的に絶妙。学生たちが皆良いが、藤吉と髙石による〈躍動する低温演技〉が絶品。全篇にわたって空間の切り取り、カットの繋ぎが突出し、一人部室に取り残された新聞部員が立ち尽くすさりげないロングショットも忘れがたい。秀作。
美大系青春映画は数あれど、ここまで描くことのみに徹した作りは異色。学校、友人、ライバル、家族も登場するが、一線を引いた距離感になっており、描くことからブレない作劇が素晴らしい。画架に置かれた紙を見つめ続ける画面が続くだけに、眞栄田のドラマチックな眼差しが本作ではいっそう際立つ。ユカちゃん役の高橋が見せる繊細な演技は自暴自棄になる姿にも品があり魅了。「ルックバック」との共通項も多いが、あちらは実写ではなくアニメが相応しかったが、本作は実写が合う。
90年代日本映画にどっぷり浸かった身としては「暴走機関車」「連合赤軍」より実現を夢見た幻の企画だけに感無量。意外や緻密に原作を解体再構築しており、箱男たちが全力疾走し、過剰なまでのアクションを見せる野放図な石井の世界と接合させる荒業が成立してしまう。永瀬、佐藤、浅野に囲まれ、伝説とは無縁に堂々たる存在感を見せる白本彩奈も出色。ただ、ヒッチコックの「裏窓」が観客を一体化させてスクリーンが覗き窓と化したことを思えば、本作の終盤は説明過多にも思える。