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マッチングアプリ利用者を標的とした連続殺人事件をめぐるサスペンスミステリーというアイデアは秀逸。ブライダル業界で働きながら私生活では恋愛への興味が薄い主人公を、土屋太鳳が現代に即したリアリティをもって演じ、非常に好感が持てる。だが、物語が進むにつれて紋切り型でない場面を探すほうが難しくなり、しかも途中から別の因縁話がメインになって、マッチングアプリも関係なくなる。ちゃんとタイトル通りに主題と四つに組み合えば、企画も主演俳優も生きたのに。
雪国のシビアな思春期ドラマとして始まったかと思えば、大島弓子の漫画『快速帆船』を思わせる展開になり、映画の質感が変幻していくところは面白い。少女の彷徨を幻想的に描く手つきは相米慎二っぽくもある。ただ、一つひとつのセグメントが撫でる程度で通りすぎていくので(特に後半以降)、漠然とした印象が終盤にかけて膨らみがち。監督の自伝的要素が色濃いそうだが、内省を突破する力強さも示してほしかった。主演の長澤樹のインパクトに対し、作品自体の力がもう少し届かない。
ごく普通の小市民が悪の才能に目覚めたり、壮絶な代償を払いながら人間的に解放されたりする(まあ要するに「ブレイキング・バッド」的な)話に、いきそうでいかない状態がこんなにツラいとは。終始「まとも」な主人公のドラマがとにかく退屈。本来のポテンシャルを発揮することのない佐々木蔵之介を黙って眺め続けるフラストレーションは、静かに、ボディブローのように効いてくる。その空白を埋めるかのような津田健次郎の怪演も、演出側がただ漫然と放任するだけでは生きようがない。
本来なら「岡田将生のとんでもない悪人ぶりに目を見張る犯罪映画の快作」ぐらいの最小限の予備知識で劇場に走ってほしい映画である。10代のキャスト陣からもプロフェッショナルな芝居を引き出す手腕はさすが金子修介監督で、特に羽村仁成が不敵でイイ。完全犯罪にどんでん返しも盛り込んだ欲張りな内容ゆえ、多少強引な部分もあるが、「このためだったか!」と思わせるラストはやっぱり気持ちいい。金子監督がこういう意欲的な娯楽作をどしどし撮れるのが健全な映画界の姿であろう。
内田英治監督の、観客を驚かせ、引っ張り回そうとする魂胆がミエミエのホラー系ミステリーで、ここまでエグいと逆に笑いたくなる。俳優陣も乱暴な脚本と演出に闇雲に役を演じているかのよう。マッチングアプリでの出会いが転がって、親の因果が子に及び、という新派悲劇寄りの血腥い復讐劇。マッチングアプリはあくまでも復讐の火種なのが意外と言えば意外か。冒頭の「アプリ婚連続殺人事件」が恐怖の賑やかし的なのも、内田監督ならではの観客サービスってわけ。
重量感のある北海道の雪深い風景が、大都会で自ら迷子になった少女の支えになっている。自分はまだやっと片足が生えたばかりのおたまじゃくしだ、と呟くもどかしい14歳。雪国生まれの彼女が、母親の死で東京に住む父親に引きとられ、そこから逃げ出してのリアルな体験。その体験には、聖と俗、死、悪意と優しさ、アートに歴史とてんこ盛り、さらに故郷まで続く三途の川?まで登場する。いくつかパターン通りの場面もあるが、幻想をリアル化する宮嶋監督のセンスは素晴らしい。
家族のためなら殺しまで! ドラマ版は知らずに観たが、冒頭でそのいきさつをザックリ語っているので、フムフム。とはいえ、オモチャ会社のサラリーマンでミステリーを書いている主人公が、その過去の殺人が原因で半グレ相手にピンチの連続という本作、まるで他人がムキになっているゲームを遠くから眺めているようで痛くも痒くもない。気を持たせるのが狙いらしい間延びした演出も手の内がミエミエ。主人公の妻が、あなたも家族の一人、私も何か、という台詞には同感したが。
気色悪さを楽しむ映画と言えるかも。ルーツはさしずめ、アメリカの傑作サイコスリラー「悪い種子」(56年)? 一見愛らしい少女が、冷酷で狡知に長けた殺人鬼だったという話。本作では数字が得意の優等生少年がそのキャラで、仲間と殺人事件を目撃、その犯人を脅迫しようとして逆にさらなる犯罪に加担、その上、仲間を裏切っての二転三転。何やら韓国のこってりしたクライム・サスペンスの雰囲気も。童顔の羽村仁成の何食わぬ顔がスリリングで北村一輝も江口洋介もまったく形無し 。
角川ホラーとしてはVHSや携帯に較べるとマッチングアプリでは普遍性に欠ける。運営会社が個人情報を覗き見しているなら意図的に結びつけたりしそうだが。アプリ婚連続猟奇殺人も見た目の派手さと裏腹に、それをどう仕立てたかは描かれず。この監督は前作「サイレントラブ」と同じく安易にフラッシュバックを多用しすぎで、そこで帳尻を合わせようとする。土屋太鳳は善戦。普通のドラマよりも異常な状況へ生真面目に立ち向かう演技の方が映える。佐久間は役の難易度が高すぎた。
新人監督らしい直情的でひたむきな作りには惹かれるが、類型的な設定や台詞に没入を阻害される。悪意の描写も図式的すぎる。監督自身の実体験が多く反映されているようだが、それを客観視する力があれば爆発的な傑作になっていた予感が漂う。終盤の非現実的な飛躍は魅せるものがあるだけに、そこへ至るまでの北海道の雪の冷たさや都会の孤独感の描写にこそ注力してほしかった。長澤樹の無表情は映画を象徴させる力があるだけに、もっと生かせるはず。魅力的な細部が零れ落ちている。
TVシリーズは未見ながら、そこから7年後に設定されていることもあり、戸惑うことなく入り込める。かつての殺人が露見しかけた佐々木が、敵からの復讐と刑事となった娘との関係を軸に描く古典的な作劇も飽きさせない。善悪双方の役が似合う佐々木の個性が生かされ、ご都合主義やわかりやすい伏線回収も不満にならず。問題は津田健次郎の敵キャラで、新しい学校のリーダーズみたいに首をクネクネ動かしながら悪態をつく芝居が成立するような作りではないだけに、いささか悪目立ち。
ここ10年は金子修介の手腕を生かすには映画のスケール不足を感じることが多かったが、犯罪ジュブナイルの本作で久々に本領発揮。大人たちの大きな物語を片方で描きつつ、少年少女の描写に魅せられる。殊に羽村と星乃が手を繋いで走る瞬間が忘れ難く、金子映画のヒロインベストを星乃が更新する姿を好ましく眺める。岡田の悪辣な存在も見事に映えさせるが、一方で残虐描写は韓国映画と言わないまでも、ヒリヒリする痛みが欲しい。微温的にとどまるため終盤の展開は物足りなくなる。