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自分がこんな人生を歩んできたのは、子どもの頃にこんな夢を見たせいかもしれない……という宮﨑駿監督の「約束の夢」を眺めているかのような不思議な映画体験。非常に面白く観たが、それは「おこぼれ」のようなものだ。題名どおり、これは子どもたちに向けた最後のメッセージであって、大人のことなど眼中にないと思う。夢、または異世界の情景が大部分を占める映画のなかで、最も重い現実……病院火災の場面をとてつもない超現実的映像美で描く演出と作画にも圧倒された。
企画はいいし、大掛かりな美術とVFXを駆使した大正13年のビジュアル、自然美を捉えたロケーションもいい。だが、行定勲監督の活劇ジャンルへの戸惑いは最後まで払拭できず、文字どおり五里霧中のクライマックスまで「手に汗握らなさ」に全篇貫かれてしまったように思う。台湾帰りの凄腕アサシン美女が少年同伴で帝国陸軍の包囲網を突破する「グロリア」+「ガントレット」な見せ場でも、満身創痍でも息切れひとつせず決め台詞を放つ綾瀬はるかは無敵のサイボーグに見えた。
これまた東映の伝統を感じさせるヤンキーバイオレンスコメディの最新形態。若い頃の大泉滉(言っておくがすごいハンサムだった)を思わせる主演の岸優太をはじめ、元気いっぱいの若手キャスト陣と、それをサポートする高良健吾、田中圭、吉岡里帆といった実力ある先輩たちのアンサンブルが楽しい。バラエティ番組感の強いコメディ演出は賛否あるだろうが、スベることを恐れずなんでもかんでも投入する精神にも懐かしさを感じた。カッティングのセンスも鍛えれば、本当にモノになるかも。
山田洋次脚本のリメイク版ドラマ「あにいもうと」では、まるで寅さんの予行演習のようだった大泉洋。今回は彼自身の性質を生かして……つまり、いつの間にか国民的俳優扱いされているが、むしろ好感度など到底抱けない役柄にこそ惹かれていく志向性を生かし、現代的な「いけすかない奴」をクラシカルな山田演出に合わせた力加減で巧みに演じている。そして相対する吉永小百合は、つまらない恋愛から解放された途端、最高に美しい表情を見せる。その作劇・演出にベテランの技を見た。
隅々まで描き込まれたカラフル画面に、擬人化されたいきものたち。戦時下、母を亡くした少年が疎開先で体験する謎めいた冒険は、まさに宮﨑アニメの真骨頂。が、都会っ子の少年が地元の学校に通わなくなる理由や、軍事産業に関わっている父親のエピソードが気になってどうしてもファンタジーに没入できない。勤労奉仕に駆り出される地元の子どもたちや、出征兵を見送る人々の軽い扱い。戦時下をただの背景にしての異世界での冒険が、都会っ子の特権的な逃避のような印象もする。
ずいぶんと話が強引、乱暴、いや荒唐無稽な設定のアクションサスペンスだが、それでも楽しめるのは、リリー役・綾瀬はるかの素早いガンさばきと、ブルース・リー張り!の、殴る蹴る、投げてぶつかり、倒して取っ組み合い、といったアクションが、しっかりサマになっているからだ。しかも彼女はどこでもリボルバーをぶっぱなし、誰が相手でも、退かない、諦めない。二丁拳銃で敵に立ち向かう場面も。大正時代のファッション、風俗も話の種になる、綾瀬はるか限界超えの娯楽活劇。
“Gメン”という言葉で、ついアメリカ映画やドラマに登場する特別捜査官を連想してしまったが、ナント、高校の問題児ばかりのクラス“G組”を指すとは。ヤンキーなど人騒がせな連中。そんなG組に転校してきた主人公が、持ち前の屈託のなさで、バラバラだったクラスに愛と友情の打ち上げ花火。普通の生徒たちは青ネクタイなのに、G組は偏見と差別の赤ネクタイ。主人公が言う、俺たち這い上がってやろうぜ、が頼もしい。大マジメな演出と演技が逆に笑いを誘い、吉岡里帆も負けずに怪演。
デニムのエプロン姿の吉永小百合が実に新鮮だ。しかもよく似合う。東京・下町の足袋屋さん。お客さんの中にはお相撲さんも。この気張らない設定が観ていて心地よく、山田監督の演出も、吉永小百合の演技も、過去2作の「母」映画よりも断然、軽やかでしなやか。むろん母親の置かれた立場で演出、演技が違ってくるのは当然だが、今回は母親としてではなく、自分の人生を生きようとする女性の話なので晴れ晴れしい。仕事や家庭の問題で悩む息子の話も今日的で無理がない。
宮﨑作品で初めて老いを感じる。母の実家へ疎開し、広大な屋敷で不可思議な体験をする前半は細部の充実ぶりに瞠目するが、異世界へ向かうことは早々に察しがつくものの停滞。行き当たりばったりな構成は、近作では珍しくないものの本作は極まった感。異世界に入ってからは総集篇の趣で、自己模倣が繰り返される。終盤では東映動画時代へと回帰したかのように、「長靴をはいた猫」「どうぶつ宝島」を想起させ、自分の興味関心の趣くままに好き放題に作るための自主制作かとも思う。
綾瀬、長谷川ら虚構性に耐えうる俳優陣に加え、セットとVFXを織り交ぜて大正を再現した美術の見事さも相まって最後まで飽きさせず。埼玉→東京で進行する無理のない移動距離も良い(やっと玉の井まで連れてきた少年から目を離し、直ぐに拉致されるのは無警戒すぎるが)。アクションをドラマになじませて悪目立ちさせない趣旨は良いとしても、形を演じている感が強く、肉体の痛みは伝わらず。濃霧の銃撃戦も距離感が喪失。映画的なカタルシスよりも、非戦を少年に貫かせたのは見識。
ボンクラ高校生がヤンキークラスに転校して恋と喧嘩に明け暮れる王道の作りながら、岸優太がひたむきさと愛嬌を併せ持つ演技で突出。なぜ今まで主演映画が作られなかったのか。急速なズームやパンを挟む編集が多用されすぎていたり、笑いが不発という不満はあれど、この手の作品につきまとうルッキズムと童貞への画一的視点から踏み出し、ある人物がゲイであることを告げる場面の処理も良い。実年齢を意に介さない無茶な配役によって演技層に幅が生まれ、破天荒な設定を成立させる。
小津安二郎原作「限りなき前進」を反転させた如きサラリーマンの悲哀は、いかにも松竹映画らしい。大泉洋に渥美清を重ねたのは小林信彦だが、期待ほどにはおかしさが出ない。相手役のクドカンが精彩を欠き、大泉の演技が受けに終始するせいか。全篇へそ出しの永野も現代的な娘として描かれつつ、古式ゆかしい女性像となって誰もが程よく山田作品らしい演技に収まる中、田中泯と吉永小百合の異物感は際立つ。小百合映画における高齢者恋愛描写問題は、流石に今回は違和感ない仕上がり。