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今や日本映画界のキーパーソンと言ってもいい活躍ぶりの河合優実を筆頭に、生徒役の役者はみな魅力的に撮れている。複数のストーリーラインを併走させながら、どのストーリーラインも妙に間延びしているというのも、ナラティブとして新鮮。ただ、それぞれの生徒たちが抱えている葛藤が、当事者以外にとってはどうでもいいことばかりなので、映画ならではの吸引力を生み出すには到ってない。それがこの作品の狙いであるならば、原作の映画化としてはほぼ完璧なのだろうが。
マグダラのマリアのような、あるいは菩薩のような、主人公ちひろの人物造形に唸る。ある意味、男性の理想や幻想を具現化した現実味のない存在でありながら、やがてそれが反転してリアリティを帯びていく。実際、彼女のような心の空洞を抱えた女性に会ったことがあるような気さえしてくる。それもこれも、有村架純が演じているからこそで、今泉力哉の抑制された演出もその魔法に平伏しているかのようだ。願わくは、今後もその傑出した才能に相応しい出演作に出てくれますように。
「日本映画界、ボクシングが好きすぎ」問題に加えて、主人公が女子ボクシング選手ということで、直近のあの傑作が頭によぎらない人はいない、損な巡り合わせ。真面目に作られた作品ということは伝わってくるのだが、容易に予想がついてしまう展開とクリシェにまみれたセリフの応酬がいかにもしんどい。「ちひろさん」も扱っているシングルマザーの貧困問題だが、そのようなモチーフこそ類型的に描くだけでは感動ポルノと言われても仕方がない。それも感動できればの話だが。
「片思い、それは好きな人に思いが通じることなく一方的に恋焦がれること」というモノローグを聞き流せる観客がいることを否定はしたくはない(原作コミック由来かどうかは関係ない。これは映画だ)。そういう極端に狭いターゲットに向けた作品にも存在意義はある。しかし、「今夜、世界からこの恋が消えても」のように国外で現象を生む作品も出てきた現在、まだこの水準のティーンムービーを量産するつもりなのか。まずは、日中シーンの不自然な照明をなんとかしてほしい。
高校卒業直前の生徒たちの2日間をスケッチふうに描いた群像劇で、スケッチといってもそれぞれのキャラのデッサンはかなりしっかりしていて、これが長篇第1作の中川駿監督、テンポのいい会話のやり取りを含め、実に巧みである。10名以上の生徒たちの状況や立ち位置が時間とともに見えてきて、このあたりの演出も鮮やか。彼らの卒業後、この高校が廃校になることが決まっていて、でも感傷より足元の不安。生徒たちの雑念を浄化させるような〈ダニ-・ボ-イ〉の歌と花火も効果的。
原作漫画の映画化だからなのだろうが、今泉作品の特徴(!)である時間潰しとしか思えない無意味なお喋りや、無意味な行動は今回ほとんどない。他人に何も求めず、何も期待しない独り上手なちひろさん。でもときにはさりげなくお節介を焼き、子どもを相手に本気で喧嘩をしたり。そんなちひろさんを磁石に見立てた群像劇で、一見、ドライに振る舞う有村架純の演技が逆に余韻を残す。キレイごとではない主人公ということで、安藤桃子監督「0・5ミリ」の安藤サクラを連想したりも。
ママさんボクサーは負けても勝!にしても、往年の「母もの映画」顔負けの設定と、子どものために闘う女という今ふうのキャラを一つにした本作、狙いはともかく、脚本の粗っぽさには鼻白む。特に前半。女手一つ、ジム通いとバイトで生活が苦しいのはわかるが、子どもが幼稚園で栄養失調で倒れたとか、電気を止められたとか、コンビニの廃棄弁当に手を出そうとするとか、あげく、バイトは次々と失職、警察騒ぎまで。終盤のチャンピオン相手の試合は、演じる朝比奈彩、見違える迫力。
千輝の読み方は“ちぎら”。先般の戸籍法の改正で突拍子もない読み方のキラキラネームは受け付けなくなるようだが、それにしてもいくら漫画の主人公の名前といっても、ちぎらとは。ま、そもそも本作、観客層を女子中高生に特化したようなキラキラ学園ラブコメディで、いじめや進学、将来の不安といったリアルな悩みとは一切無縁。若い俳優たちのキラキラ演技もそれなりに小器用で、甘々のジャンル映画として、これはこれでいいんじゃないの。起承転結も明快だし。
なるほど! 卒業式という祭りが「グランド・ホテル」的な枠組みになる、と。高校生活ものなら文化祭というイベントもあるが、卒業式のほうが区切りとして強いし、各個、各グループの行動の幅が出る。面白い。河合優実の存在感とちょっとしたサプライズ的な見せ方。まさか国連の加盟国が193カ国あるということに泣かされそうになるとは思わなかった。いや泣かないが。佐藤緋美のアイルランド民謡とそれを見る小宮山莉渚もよかった。ネタを盛り込める大枠でもうできたという映画。
甲子園出場校の履歴みたいに何年ぶり何回目という頻度で私がこの欄につい書くのが“有村架純はいまの労働者階級のマドンナ”というひと言だが、本作を観てやはりまた強くそう思う。その生活感と一体の魅力に本作のちひろのキャラがプラスされて“保守的家庭像への批判者たるヒロイン”とも感じる。原作漫画の生臭さや剣呑な部分(ちひろの誘惑上手逸話や、随所の暴力性)はセーブしたか、とも思うが、澤井香織と今泉力哉による脚本、今泉演出はツボを押さえて語りきった。
「ケイコ 目を澄ませて」の洗練や賢明さと逆のしんどさ。しかし嫌いじゃない。主演朝比奈彩はシャドウボクシングはまだしも試合の場面ではちょっと腕だけのパンチに。相手も。すなわち泥試合。しかしそのストレスフルな状態は人生の嫌な感じによく似ている。せんだみつおが演じる、介護士女性の尻を撫でて威張り散らす老人の醜悪。松下由樹演じる姑が、自身がシングルマザーで苦労したからヒロインを抑圧するという地獄。まとめて殴り殺したれ! それだと違う映画になるか。
最近はキラキラ映画とは呼ばないのか、恋愛漫画原作のヤング男女アイドル出演恋愛映画を。そういえばキラキラ映画はよく画面にレンズフレアがキラーンと入っていた(とはいえそれらはたいていエフェクト、CGで、雰囲気として用いられ、60年代アメリカ映画の新世代撮影監督らが従来ならばNGとされた画を新たな表現としたニューなルック、という感動とも別物だ)が本作にはもうなかった。高橋恭平が自分に関心持たぬ畑芽育に関心を持つ、このようなことは確かにある。