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あらすじに目を通したときの先入観を、心地よく裏切ってくれる良作だ。シリアスな題材やモチーフを扱いながらも、例えば、主人公が橋を渡っている最中、蟬におしっこをかけられた幼馴染の初恋相手と戯れ合うといった、なんでもないシーンが忘れ難い輝きを放っている。近年、継続的に役の大小を問わず(もっと言うなら企画の筋の良し悪しを問わず)映画に出まくってきた前田敦子が、すっかり作品の質を下支えする名バイプレイヤーに成長していることにも改めて感心させられた。
芦澤明子のカメラによるリッチな画力も借りて、ここぞという場面ではさすがのインテンシティを発揮している大友啓史演出だが、偽史ものギリギリの創作歴史劇映画で2時間48分はいくらなんでも長い。コメディとシリアスの両方を貪欲に獲りにいくというのは「るろうに剣心」の成功体験からくる方向性なのかもしれないが、信長の人生をふまえるなら中盤以降はシリアスが前景化していくのは容易に予想がつくわけで、最初からそっちに振り切った方がよかったのではないか?
出版社勤務経験のある立場からすると、飲みの席とかならまだしも日中のオフィスで同僚から「書いてるんですよね? 小説」と言われるような職場は「こんな出版社は嫌だ」の筆頭だ。そうしたもろもろ雑な出版業界などの背景描写(ペット産業をめぐる社会的視線の欠如も気になった)の一方、小説家になる夢を捨てきれない主人公と、極端に自己評価が低い恋人の人物描写に関しては妙にリアル。主人公の部屋のシーンではほぼすっぴんで通していることも含め、穂志もえかが滅法いい。
ティーンが主人公ならまだしも、表面的には社会に順応している20代の漠然とした「死にたい願望」ほど、それ以外の世代の観客にとってどうでもいいものはない。独りよがりなモノローグから始まる本作は、一度も地に足を着けることなくそのままふわふわとエンドロールまで通り過ぎていく。こんな安っぽいナルシシズムに塗れた話が、監督のオリジナル脚本ではなく原作ものであることにも驚く。作中人物が描いたとされるジャクソン・ポロックそのままの絵は何かの冗談なのだろうか?
本作のまつむら監督自身の脚本、編集による前作「恋とさよならとハワイ」を観たとき、今泉力哉監督系の恋愛専科の監督という印象を持ったりしたのだが、なかなかどうして注目したい監督、そして愛すべき本作である。基になっている舞台劇のことは全く知らないが、周辺の大学生の娘とその母親をはじめ、どのキャラクターにも生活感があり、演出、演技も軽妙。若年性乳がんという大ごともドカンとした扱いはしていない。キャスティングもドンピシャで、ロケ地も効果的。
話題作とはこのことよ。みんなで鑑賞すれば、イベントに参加したような気分で盛り上がること間違いなし。実際、戦闘場面もエキストラの数もロケ地も精一杯頑張っていて、南蛮文化へのアプローチもそつがない。けれども派手な作りに気を入れ過ぎたせいか、肝心の木村拓哉の信長も綾瀬はるかの濃姫もカラクリ人形並みで、年代ごとに変化する二人の関係も描写不足。そしてあの大掛かりな幻想シーン。大胆さは買うが、愛ゆえの逃避行とは、どうした信長! 話題の尽きない話題作です。
負け犬ふうなタイトルはどうかと思うが、実にユニークで説得力のあるラブストーリーで、冒頭の居酒屋シーンからこちらの首根っこをガッシリ。他人や社会と上手く付き合えないというキャラクターは映画の定番で、この作品の莉奈もそういう手のかかるキャラなのだが、自分を誤魔化せない莉奈の危うさが、逆に現代人や社会のカラクリを炙り出し、このあたりも小気味いい。莉奈役の穂志もえかと、莉奈をペット扱いしている主役の黒羽麻璃央の、アップを含めた演技にも拍手したい。
歩いている男の背中に、死にたい、この絶望が続くならこの世を去ろうと男は心に決めた、という声が被さる。誰の声? 思わせぶりな出だしにゲンナリする。かと思えば職場の上司に理不尽なことを言われ、死にたいと呟く男子が登場、さらにその理不尽上司に、マジ死んで欲しいと叫んで仕事を辞める女子がいたり。おいおい、いくら現代が生きづらいからといって、こう簡単に死を口にするなよ。中盤からは男女の群像劇に移行するが、それもシニカル気どりのポーズ先行、もう手に負えん。
原作は知るひとぞ知る戯曲だそうだが、確かにすごく話が面白い。見ごたえある女性映画だった。難病もの、余命ものに対する批評のようにも感じる。死は回避できるかわりに青春や女であることを切り捨てなくてはならないかもという岐路。ヒロイン吉田美月喜は、どうしていいかわかんないんだよ!という役柄の思いをそのままに見せていた。その脇を固める役者陣の解像度と存在感がすごい。常盤貴子の関西弁の声音、大人の女らしさが見事な前田敦子、不器用さで押してくる三浦誠己。
うつけ者は偽装で、実は野性的な智者の英雄信長。それが男子が好み憧れる信長だろうが本作の面白さは彼がほんとにバカだった設定。そして斎藤道三の娘濃姫が文武両道の女豪傑で彼を使嗾したと。綾瀬はるかが素晴らしい。木村氏はいつもどおりながらそれはあえてのいつもどおりで、そのことで今の世に遅れてない新たな信長像が立ち上がったかも。アクション場面少なく、全体として歴史大胆脚色ラブ(コメ要素もある)ストーリー時代劇。だがこれは爽快さがない難しい映画だぞう。
テン年代前半、多数のBABEL LABEL作品を観たが私は結構彼らが好きだった。映画史を参照せず、彼らヤングたちが心地よく感じるツルッとした画面で攻めてくるため、シネフィルにスルーされ、批評の援護ゼロだった彼ら。だがその感覚や主題は真摯で良かった。それは藤井道人氏の水面下の部分、予備軍、同じ可能性を持つ作り手らの気配であり、また本作「生きごめ」もそれだ。本作は近代日本を貫く青年の文学への夢(迷妄)や男女関係の腐りをオリジナルに見出し現代性で切開する。良い。
画面もきれいだし題材も面白いし、まあ普通と思ってもよかったが、世代の違いか、本作の作り手がするっと語ることのなかにいくつも引っかかりを感じてそこが非常につらい。死ぬ死ぬ死ねの連発だがあのパワハラ上司の描写だけだと話が小さい。そのくせ同窓生の過労鬱自殺逸話は薄めてくる。本作に限らぬ新しめの映画の多くがそうだが男女関係ですぐ「無理」とか言う。自分が社会に対して何をするかが大事とか。こういう、人間を矮小化するもの、殺しにかかってくるものは認めない。