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この原作そのものは未読だが、『夏の庭ーThe Friends-』以来、作者の湯本香樹実は一貫して、死という問題、とりわけ死者との交流ということに心を砕いてきたように思われる。本作も、その系譜に連なり、愛する父を亡くした喪失感にさいなまれる少女が、いかにして、そこから抜け出すかを描いている。その意味で感動的な物語なのだが、成長した彼女が、何故、睡眠薬を常用するようになったのかがわかりにくいのと、母を惹きつけたポプラの木のイメージが弱いことに不満が残る。
杉浦日向子原作の、幕末の彰義隊を舞台にした青春映画。江戸から追放される徳川慶喜の姿に涙し、許嫁を捨てて彰義隊に留まる者、幕藩体制の崩壊に行き場を失って身を寄せる者、幕府がすでに瓦解したうえは、彰義隊は速やかに解散すべきだと考える者、思惑を異にする三者に、恋模様も絡んだ物語が、丁寧に作り込んだ画面で展開するのだが、なぜか、いまひとつ弾まない。カットからカットへと見る者を引き込む躍動感に欠けるのだ。これは、原作漫画のコマを意識し過ぎたためかもね?
近未来の、地震により無法地帯と化した「スラム・ポリス」に住む三人の男女の物語だが、お話そのものに新味はない。彼らのやったことは、「893愚連隊」のチンピラたちと変わらないのだから。にもかかわらず、眼をひかれるのは、彼らを取り巻く風景だ。東日本大震災の被災地を撮ったのではないかと思われる風景が視界に浮上してくることに思わず心が騒いだ。それは、近未来どころか忘れ去られつつある現在だからだ。これで、ポリスと外との軋轢が組み込まれれば文句ないのだが。
小松政夫が消えたあとの廃墟の佇まいに引き込まれると、中華料理店の宴会場に置かれたピアノの封印を、瑞希(深津絵里)が不用意に開いたことから起こる出来事には、わけもなく胸が熱くなり、夫と関係のあった女(蒼井優)に、妻である自身の優位を示そうとした瑞希が、相手の余裕の笑みで返り討ちにあうのに思わずニヤリとしてしまう……。黒沢清でなければ、こんな映画は撮れないと思うと同時に、生きている者の背後に常にいる死者を忘れさせようとする現在への辛辣な批評を感じる。
そこそこ裕福ででもなければ、子どものいる家庭の生活は仕事と家事と子の面倒見ることの難しいバランスをたちまち露わにするだろう。その部分の描写が良い。あと年齢相応のおばあちゃんをちゃんと演じる中村玉緒が良い。棺桶のなかに入った姿まで見せるのもなかなか。大映帝国のプリンセスであったところからテレビバラエティみたいなものに出てもずっと通用していた現役感はいまだ健在であると感じた。そしてどうでもいいことかもしれないが藤田朋子の老けメイクには萌えを感じた。
柳楽優弥、瀬戸康史、岡山天音の三人がパッと見、杉浦日向子の原作漫画の秋津極、吉森柾之助、福原悌二郎の見た目をほぼ再現している感があり、そこに企画のハマってる感が出ている。なかなか演出が難しいであろう斬り合いや戦闘の場面はやらないのかと思ったら、工夫を凝らしてやっておりそこは評価したい。彰義隊隊士の若者が戦が近いことを理由に一晩深川に遊んだ翌朝の帰り道の場面には、ニューシネマ系ウエスタンの如き死の予感が際立たせる青春の叙情が濃厚にあり印象深い。
どこかで本作の予告篇を観て、オオッ! と思わされた。画面が安っぽくない。本篇観ても、近未来ディストピアで「冒険者たち」(R・アンリコ)的な青春もの、と感じ、悪くないと思う。風景も記録として意義ある。トッポい野郎の役で、私が以前より気になっていた味のあるアベラヒデノブという俳優(監督でもある)が好演。私見では、彼と二宮健監督、あと「オー!ファーザー」を撮った藤井道人監督らは一種のトライブであるようだ。ウェルメイドさの罠にさえ堕ちなければ彼らは開花する。
過去作を見渡しても最も広い観客層に観られそうな黒沢清監督作品。氏が8ミリ映画製作期から持つ、映画的であろうとすることの模索が続けられつつ、物語的な主題というか感情の主旋律というか、全篇に流れるものに感情移入可能な優しさがあり、それらが無理なく融けあう。しかし幽霊についての映画、という設定が根本にあり、その演出において監督得意のムーブ連打。それがまたいつになく物語る感あり。その上に日常描写、さらにまた非日常的表現。観るミルフィーユ的見応え。
女の子が母親と共に飛騨高山へやって来て、ポプラ荘で暮らし始め、大家のおばあさんに死んだ父親への手紙を託し、やがて大人になる。言ってしまえばそれだけの内容を、たっぷり間合いを取りつつ98分かけて描いた、ある意味贅沢ともいえる作品。確かに達者ではあるが、本田望結の涙に頼りすぎでは。短い時間に2回も渾身の泣きの演技を見せられても正直、困惑。中村玉緒演じる、死者に手紙を届けることのできる老婆が登場時だけ頑固ばあさんだったりと、細かいところに疑問が残った。
「彰義隊」として上野戦争で散った若者たちの青春を綴った杉浦日向子の原作を、30年以上の歳月を経て30歳の新鋭が映画化。陰翳の効いた映像、淡々と抑えた演出は、「今」を吹き込みつつも原作独自のイメージを壊すことなく、短き命の儚さを静かに訴える。主人公・極に扮した柳楽優弥の変わらぬ目力、つかみどころのない妙な色気が物語を牽引。それだけにラスト、極の散り際があまりにもあっけなく感じた。ここだけはもう少し、切ない火花を散らし劇的に描いてもよかったのでは。
大阪芸大の卒業制作として21歳で撮った作品だそうだが、なかなかどうして、そうは思えぬ手練れ感。男二人に女一人。次世代が描く「冒険者たち」は、荒廃した世界を突き抜ける青春の疾走、虚無と並存する自由への渇望、剝き出しの愛と劣情を臆することなくまっすぐ描く。こなれているのに、根底には年齢を思わせる青さが。そのアンバランス加減が今の二宮健の魅力ともいえ。アンバランスといえばもう一つ、シナリオの脆弱さも否めず。個性際立つアス役の俳優と、監督の明日に期待。
死んだ夫と、彼が死後お世話になった家々を巡る旅に出る妻。二人は、成仏しきれぬ霊を見送る役目を負うようになる。最初に訪れる新聞配達員・島影を演じた小松政夫の寂しげな笑顔がいい。窓外から捉えた夫婦と島影の束の間の団欒、丁寧に切り取ったチラシの花の壁紙が、横たわる島影を鮮やかに取り囲む、棺を思わせる寝台――忘れ得ぬ場面が多々あり。彼岸と此岸の、紙一重のあわいをなぞる物語。時折、薄皮が破れるように穴が開き、現実が見え隠れする。その不思議な手触りが新鮮だ。