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「心臓病を患った娘がいる工場の社長」のようなメロドラマ的サブ設定にはさすがに白けてしまうのだが、今やすっかり「日曜劇場」のデフォルメ演出&暑苦しい演技が視聴者/観客にもデフォルトとして浸透してしまった池井戸潤原作の映像化を、三木孝浩は柳田裕男のカメラの力を借りて自身の作家性に引き寄せることに成功している。特に御曹司役の横浜流星は当たり役で、「涼しげな土下座」という語義矛盾までをも見事に体現。尺の都合による、ダイジェスト的な食い足りなさは残るが。
このタイトルでライトなコメディではなく、リアリズムタッチの作品であることには意表をつかれたが、ストーリーはあまりにも予想通りに進んでいく。「コンプライアンスの壁にぶつかる昔気質の刑事」という設定を、映画の制作現場のメタファーと読み取ることも可能。もっとも、警察組織そのものに対する批判的な視点は皆無。冒頭とクライマックスで2回、緊急時でもないのにパトカーがサイレン鳴らして一般車を追い越すシーンを作り手が好意的なスタンスで描いているのには唖然とした。
YouTuber的な軽薄さと、若手コント芸人的な台詞の間の面白味は理解できるものの、近年自分の評価(過去にここで「黄龍の村」のレビューもした)と世評とのギャップを最も感じる阪元裕吾作品。ミスマガジンの6人が殺し屋に、主題歌は東京初期衝動、みたいなところに象徴されるドメスティックなサブカルノリがテイストとして合わないというのはさておき、本作も極端な低予算で制作されているのは明らかで、そんなに支持されているならそろそろお金のかかった作品も観てみたい。
「異動辞令は音楽隊!」同様に「コンプライアンスの壁にぶつかる昔気質の刑事」モノだが、こちらの刑事はその壁を超えてとことん暴走していく。現代社会批判を込めた近未来SF的設定、突然挿入される海外での精神治療、唐突な背景のVFX、非現実的な照明の効果など、ストーリーの本筋以外でいちいちフックが効いていて退屈しないが、過激な暴力描写それ自体が目的化したクライマックスにはノレず。オープニングのグラフィックや全篇にわたる音楽に顕著な頭抜けたセンスはさすが。
池井戸潤が描く仕事、組織、人間たちは、いまさら言うのもなんだが、かつて人気があったNHKの『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』と被るところがあり、どんなに障害物が大きくても、必ず達成感がある。銀行が舞台の今回は、同期入社ながら背景が全く異なる2人を主人公に、それぞれの信念を描いていくが、演じているのが若手の売れっ子系、なにやら硬派のアイドル映画ふうな印象も。彼らを補佐するベテランの俳優たちはさすがで、中でも部長役・江口洋介は座布団二枚!!
予定調和は娯楽映画のよくある手法のひとつだが、本作の場合、その立ち上がりからあとに続く流れまで、すべて予定調和&想定内のまんまで、これにはいささかガックリする。つまらなくはないけれど、面白くもないのだ。畑違いの音楽隊に配属された捜査課の鬼刑事。阿部寛は「とんび」と似たような独りよがりな主人公を駈け足気味に演じているが、どうも嘘っぽい。主人公の周辺の事件やエピソードも勝手知ったる出来合いのレベルで、別れた妻と暮らす娘の描き方も手の内、見え見え。
ここまで本気で不真面目をやられると、もう面白がるしかない。昨年の「ベイビーわるきゅーれ」で、2人組のゆるキャラ殺し屋ギャルを誕生させた阪元監督の、さらなるアブナい打ち上げ花火。女子に特化した殺し屋養成所というのもふざけているが、応募してきた6人の態度とその理由が人を食っていて、演出も若い女優たちの演技もギャル度全開のおかしさ。伝説の殺し屋による山奥での特訓がまたムチャ振りの連続。そして意外な敵が現れての後半。いやぁ、目一杯、楽しみました。
本作の、リアリズムなどほとんど無視した過剰なキャラクターと、過剰な設定、過剰な暴力は、映画という嘘だから可能なキツいくすぐりで、バイオレンスアクションの定番でもある。がどうにも腑に落ちないのは、主人公の暴走刑事が、その暴走癖治療のために3年も海外の施設に送られ、あれこれ治療を受けるくだり。要は主人公が不在のその3年間に日本が変わったということを描くために、海外治療を使ったのだろうが、これはムリムリ。オープニングを含めスタイリッシュな映像には感心。
バブル期の傲慢かつ放漫な経営が招いた危機という原作設定から時代的な要素を外したため、屈折した金持ち一族の次男坊勢は悪く言えば抽象的になったが逆に言えばその主題は普遍的になった。愚行の臨界点に達するユースケサンタマリア演じる叔父のキャラと芝居が良い。その他登場人物全員が明確にその性質を表現していて曖昧さがない。主演竹内涼真が、いま日本社会で求められる公明正大、隠蔽なし忖度なし慈愛あり、という池井戸潤世界の正義を体現するスケール感で好ましい。
これはまた、ほぼ阿部寛しかできない役だわ……まずコワモテのごつい刑事で説得力ないといかんし、そこからのズッコケや愛嬌も必要なわけで。キャスティング、存在感、阿部寛、見れば納得である。変格的バックステージものミュージカル、でもあって、ありそうでなかったユニークな題材だとも思う。的確によく動き、活気のある撮影が良かった。そういえば主人公の音楽隊異動以前の刑事パートではちゃんと硬質な刑事もの映画らしいルックにもなっていて、そういうところも面白い。
前号の本欄の対象作品だったガールアクション映画に関して阪元裕吾監督「ベイビーわるきゅーれ」を引き合いにし、その新作はイマイチ、「ベイビー〜」は良いと書いたが、まだその意味をつきつめられていない。「グリーンバレット」もイケてた。ミスマガガールズが伊澤彩織氏ほど鍛えられてなくても高石あかり氏ふうのメリハリでやれるということか。若者の日常感ダラダラ感をアクションと残酷への壮大なフェイントにするという方法論か。加えて本作には伊能昌幸=国岡がいる。強い。
近年日常的に考えていたことがそのまま画になっていて、しっくり馴染んで全篇を観る。何も通らない横断歩道赤信号で律儀に待つ奴が増えたと思いません? そして、にもかかわらず、というか、だからこそ、なのか、善悪や倫理的な判断さえも自発性や当人の魂を欠く気持ち悪い同調圧力となって、結果、世の中が荒んでいる。あんまり舐めてるとその相手に殴られるよ。その暴力の緊張感なく増長する者の醜悪を憎む本作に同意する。脇でない、全体像の川瀬陽太氏の圧倒的な良さ! 必見!