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男に食いものにされ、何度ボロボロになってもすぐに立ち直る大食漢の肉子と、ほっそりした娘のキクコ。似ても似つかぬこの母娘の人情アニメで、実の親より育ての親というお約束ごと通りに進行、そういう意味では泣きたい人向きのアニメである。けれども「海獣の子供」で水族館の世界を無限に広げた渡辺監督にしては通俗的泣かせドラマに足を引っぱられている印象で、それ以上の広がりがないのがもの足りない。大竹しのぶが声でも達者なのは当然だが、Cocomiの吹き替えも合格点。
青いバラ“ブルーヘブン”の誕生秘話と思いきや、丸ごと、由紀さおりにおんぶにダッコのワンマン映画で、言っちゃあなんだが、ハングライダーも、岐阜の大自然も、由紀さおりの刺身のツマ。園芸家として実績を残した彼女が、ガンで余命を宣告されたことで、青春時代の思い出が甦り、ハングライダーに挑戦するというのだが、周囲を巻き込んでの冒険にムリヤリ感があり、ドラブル続出もヤラセ演出がミエミエ。とは言え、これが外国映画だったら素直に楽しんだかも、と思ったりも。
今国会でLBGT法案の成立が見送られ、また振り出しに戻った偏見と差別に寛容なニッポン。ところで私は、トランスジェンダーの新世代アイコンだというサリー楓のことを全く知らずにこのドキュを観て、学歴も容姿も頭脳にも恵まれたサリーの、かなり巧みに作られた身分証明映画ではと思ってしまった。むろんチャレンジに失敗するエピソードも隠さずに映すし、女子になっても息子は息子という父親にも取材しているが、このドキュを名刺代わりにするサリーが目に浮かぶようでゴメン。
コミュニケーションが苦手な主人公の居場所さがしというのは、いまや青春映画の定番だが、さすが横浜監督、ベースに津軽方言と津軽三味線を配し、ステップ、ホップ、そしてジャンプ!! 越谷オサムの原作は知らないが、メイドカフェでのバイトが、自分にベッタリの主人公を少しずつ変えていき、周囲の人々に向ける視線も素直になり……。祖母や地元の人たちが話す津軽方言は字幕がほしいほどだが、それが逆にこの作品の魅力になっていて、そういえば寺山修司も津軽の人。駒井蓮、いいね。
STUDIO4℃の造形力は、「えんとつ町のプペル」のような丸のままのファンタジーよりも、「海獣の子供」やこの作品のように現実世界のなかの異世界を描いたときに本領を発揮する。西加奈子の小説に描かれた肉子ちゃんの生々しいダメさ加減は、実写だとドぎつく映ってしまうきらいがあるが、人物造形と描線の描き分けによって、アニメでしか表現不可能な「リアル」を紡ぎ出している。物語は他愛ないといえば他愛ないが、だからこそディテイルの豊かさに目をみはった。
事実を題材とした苦心と感動の物語だが、まさにそのキャッチを少しもはみ出ることのない平板な演出と演技――しっとりした場面には抒情的な、コミカルな場面には軽快な音楽が流れ、深刻な顔をした人物が深刻なことを、おどけた顔をした人物がおどけたことを言う――がつづく(とくに寺脇康文とその子分たちの登場場面がきつい)。実人物に配慮したのはわかるが、由紀さおりの主人公、もっと重層的なふくらみを持たせられなかったのか。撮影も、とくに屋内場面に工夫がなく退屈。
サリー楓がトランスジェンダーのミス世界大会に出場するまでを追うドキュメンタリーとして映画は始まるが、すでにこの時点で彼女のことばにはあやうさがただよっている。大会の結果が出て以降は、彼女の日常や人々との対話をとおして、そのあやうさの依って来るところを掘り下げていく展開となるが、ここに至って今度は作り手の手法の問題、端的に言えば他者性に対する無遠慮が前面化する。タイトルは父親のことばに由来するが、はたして作り手は誰に寄り添おうとしているのか。
着地点は予想がつくが、語りに工夫があり飽きさせない。場所の捉え方、下手な作り手ならご当地映画的な画作りに終始してしまうところを、柳島克己のみごとな撮影と相まって、山の風景などわかりやすくフォトジェニックな場面のみならず、空間と人物の関係そのものに物語が宿っている。最大のポイントはことばで、冒頭からラストまで全篇を支配する津軽弁、そのリズムじたいが映画の呼吸となる。親子関係の描写は、これまでの横浜聡子作品のテイストに加え、たしかな成熟も感じさせた。
こんなおばさんいたら楽しいなと男性の半分は思いそうな肉子ちゃん。信じられなかったが、声は大竹しのぶ。できすぎの小学生の娘キクリン、リアリティー無視の親友マリア、大事なときにヘン顔の二宮くん、おいしく肉を焼くサッサンなどの人物も残りそうだ。ジブリへのオマージュがあり、吉田拓郎の〈イメージの詩〉もよみがえった。渡辺監督は、明石家さんまの、微妙に抑制ありの趣味に従いつつ、最後のまんじゅうまで低姿勢を保ち、山田洋次に負けない程度の「故郷」は提出したと言える。
由紀さおり、リズム感は当然として、芝居もいい。遅まきながら、その演技者としての力を発揮する主演映画が誕生した。祝福したい。彼女の役は、不可能とされていた青いバラを生みだした実在のバラ育種家がモデル。原作も手がけた秦監督の意図は、わかりやすい話の運びで、病気に負けずに夢を実現するヒロインと周囲の善意の人物たちを描き、明るい肯定感を立ちのぼらせることだったろう。それに成功していないとは言わないが、随所で嘘っぽくドタバタして薄っぺらな印象。惜しい。
トランスジェンダー。クイーンコンテスト、大事だろうか。その人として生きるだけでなく、社会にアピールする活動が必要という考え方もどうか。本作の企画は、サリー楓のそうした活動への加担となるものだ。終盤、経験と思考力と魅力的な容姿をそなえたはるな愛が登場。楓に対して「闘いすぎてるよ」と戒める。作品自体がそれを受けとめきれていない気がした。杉岡監督、画のセンスも、答の出ていることに足を取られない賢明さもあるが、いわば商業的ビューティーへの批評を欠く。
モデルがあるのだろうか。いいところある男女が働き、憎めないご主人様が来る青森のメイド喫茶に、駒井蓮演じるヒロインを踏み込ませる。気持ちの表現が苦手で、特技の津軽三味線からも逃げているいと。その性格や環境をややたどたどしいながら映画的に納得させての、展開。いとも、横浜監督も、やってくれるなあと感心した。父と娘の物語の側面をはじめ、型通りでも退屈させない駆け込み方で、三味線も活きた。生きるってそういうことだべ。けっぱれ。だれかにそう言いたくなった。